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「障がいは言い訳にすぎない。負けたら、自分が弱いだけ」。東京都主催の障害者スポーツをPRするイベント用ポスターのキャッチコピーに対して、障害者らから批判が相次ぎ、都は15日夜、JR東京駅構内からこのポスターを撤去した。選手が自分を鼓舞した言葉が、せりふの形を取らずに使われて誤解を呼んだ形だが、東京パラリンピックを2年後に控えて、障害者スポーツを推進する難しさがにじむ。
都オリンピック・パラリンピック準備局によると、ポスターはイベント用に都が作製した。23種類の障害者スポーツを、各競技1選手ずつ、本人の言葉を元にしたキャッチコピーと競技写真で紹介した。
批判を受けたのは、パラバドミントン(パラバド)の杉野明子選手のポスター。杉野選手が過去のインタビューで語った「健常(者)の大会に出ているときは、負けたら『障がいがあるから仕方ない』と言い訳している自分があった。でもパラバドでは言い訳ができない。負けたら自分が弱いだけ」という言葉を元に、都が自らコピーの文章を作成。杉野選手が所属する日本障がい者バドミントン連盟の確認を経て、8日から東京駅構内に1枚、2日からJR山手線車両内に計15枚を掲示したという。
東京駅構内には21日まで掲示される予定だったが、ツイッターなどで「障害は言い訳ではなく事実だ」「行政のメッセージとして不適切」と声が上がり、都にも抗議の電話が寄せられたため、15日夜に撤去した。16日にはイベントを広報するウェブサイトからも削除して、おわびを掲載した。車両内の掲示期限は16日午前までで、予定通り撤去された。
都の担当部局に16日までに寄せられた批判は「障害の程度は人それぞれなのに『言い訳にすぎない』というのは不愉快だ」といった電話が12件だった。趣旨を説明すると理解を示す人もいたという。萱場明子・都パラリンピック部長は「ポスターの言葉は選手が競技に向き合い、自分を奮い立たせる姿勢を示したものだったが、デザインが不適切で、あらぬ誤解を招いてしまった」と釈明。東京駅構内の展示で杉野選手のポスターだけが欠けることには「デザインを変えるには時間がかかり、会期中に対応できない。撤去は都として最も早くできる対応だった」と話した。
杉野選手は出生時に左腕に障害を負った。同連盟によると現在シングルス世界ランキング5位。インドネシアで今月13日に閉幕した第3回アジアパラ大会では、ミックスダブルスの1種目で3位入賞した。連盟は「東京都から正式に報告を受けていないので現段階でコメントできない」としている。
コラムニストの小田嶋隆さんは「選手が自分の思いとして語るのは理解されるが、この言葉だけを取り出してポスターとして張り出せば、他の障害者も言い訳をするなというメッセージ性を帯びる」と指摘。「公の機関である都が発するメッセージとしてこのように受け止められる可能性があることを、作製過程で誰も指摘しなかったのか」と疑問を投げかけた。【塩田彩、森健太郎】
毎日新聞2018年10月16日 20時29分(最終更新 10月16日 21時24分)
https://mainichi.jp/articles/20181017/k00/00m/040/093000c