死者数は年間3万人といわれるが、その中で見落とされがちなのが、働き盛りの現役世代だ。
日本少額短期保険協会が発表した「第3回孤独死現状レポート」によると、2015年4月〜18年2月までの孤独死者のうち、50代以下が約4割を占める。
地域の民生委員の訪問や、町内会や自治会の見守り活動などによって、高齢者は福祉の網にかかりやすいが現役世代は対象となりにくい。そのため死亡後の遺体の発見が遅くなることも多い。
孤独であることは1日15本たばこを吸うのと同程度の健康への悪影響があることや、国際的に見ても日本人が社会的孤立に陥りやすい現実、職場での孤独などをレポート。
見過ごされがちな現役世代の孤独の実態に迫っている。
東京都府中市。築16年の日当たりのいいアパートで、30代の男性はリビングのベッドにくの字に体を横たえた状態で息絶えていた。
ベッドマットは粘りけのある茶色の体液をたっぷりと吸い込み、この世のものとは思えないほどの異臭を放っていた。
◆若くしてがんになり、親に連絡せず闘病
辺り一面には、まるで小豆を散らかしたかのように大量のサナギが落ちている。
これが羽化してハエになる。最初のハエは換気扇などのわずかなすき間から、そのにおいをかぎつけて室内に入り込む。そして遺体の眼球などに卵を産みつけ、幼虫(ウジ)→サナギ→成虫というサイクルで増加していく。
隣人からの異臭がするとの通報を受けて、警察が駆け付けたときにはすでに亡くなってから2週間が経過していた。
がんで絶命した30代の孤独死。無数の黒い点は、遺体に湧いたハエのサナギだ。
男性が亡くなったベッドの横のこたつの上には、パステルカラーの便箋が何枚もゴムで丁寧に束ねられていて、こう書かれてあった。
「野菜を送りますね。慣れない都会で大変だと思いますが、頑張ってね!」
それは故郷に住む母からの手紙であった。優しく穏やかな筆跡が残る色とりどりの便箋の隣には、大量の抗がん剤が無造作に置かれていた。
キッチンの横の段ボール箱には、母が手紙とともに送ったであろうタマネギやニンジンやサツマイモが、水分を失ってクタクタにしなびている。
男性は地元の九州の高校を卒業後、上京して都内の大学に進学した。卒業した後は、都内の社労士事務所に事務職として勤めていたらしい。
ある日体調が悪くなり、病院に行くと若年性がんだと診断された。その後は休職し、このアパートで闘病生活を送っていたそうだ。
実家の両親に心配をかけるのは申し訳ないと感じていたのだろう。男性は病気のことは伝えずに、たった独りでがんと闘うことを選んだようだ。
九州に住む母はそんな息子の窮状をまったく知らないまま、毎月野菜と手紙を送り続けていた。
男性の住んでいたアパートの1Kの部屋は、小ぎれいに整頓されており、青色のスノーボードのブーツや少年マンガ誌、最新のゲーム機などが所狭しと並んでいた。
アクティブな性格で、花の独身生活を謳歌していたようだ。しかしがんの悪化とともに身動きが取れなくなったのだろう。
前述の孤独死現状レポートによると、孤独死の死亡原因は6割が病死だ。この男性のように異臭によって発見されることも多い。
>>2以降に続く