◆ロスの先進性をセールスポイントに
ワシントン・ポスト紙によると、ロサンゼルス市動物衛生委員会で、市内6つのシェルターで保護する33,000頭の犬を肉食から菜食に変えるべきという提案があった。このアイデアは、ハリウッドの脚本家でもあるロジャー・ウォルフソン委員によるものである。その根拠は、ビーガン食が多くの健康問題を取り除くと言う説や、動物を動物に与えるという倫理観の問題にある。ウォルフソン氏は、ドッグフードの主原料となっている肉の生産に伴う環境負荷を減らすことが、この惑星を救うと主張する。
動物愛護運動家のリチャード・ホール氏、通称モビーは、「もし私たちがこれを採択すれば、ロサンゼルスが真に進歩的な都市であることを世界に証明する新たなものになります」と賛同する(同上)。
これに対し、市の主任獣医であるジェレミー・プルパス氏は、個人の犬ならともかく、シェルターにいる沢山の犬となると話は違う、と反対を唱える。妊娠中の犬、仔犬、傷ついた犬などさまざまな健康状態の犬がいる。プルパス氏は複数の専門家に相談したが、栄養面でビーガンを推奨する人はいなかったと報告している。またビーガンのドッグフードは現在のものの4倍の値段になり、食物繊維の影響で便の量と回数が増えることによる管理の大変さも指摘した。ビーガンの食事が下痢を招くとも発言している(米ラジオ局WIBW)。
ビーガン食賛成派は、自身の飼い犬が消化の問題を起こしたことがないし、予算を超えないペットフードもあると反撃した。その後も論争が続いている。
◆犬に必要な栄養を満たす難しさ
犬の健康に直結する栄養面について、インデペンデント紙によれば、犬の菜食に関する研究はまだ進んでいないが、雑食のため理論上は植物ベースで生きていけるという。犬は、ハイイロオオカミの亜種にあたるが、オオカミが葉や果物を食べていることも論拠のひとつである。
注意したいのが、市販のビーガンドッグフードがすべて高品質ではないことだ。米国の調査では、市販の25%が必要な栄養素を含んでいないことが判明している。自家製となるとさらに栄養バランスの問題がある。ヨーロッパの86匹のベジタリアン犬の研究では、タンパク質、必須アミノ酸、亜鉛、ビタミンDおよびB12など、半分以上の栄養素が不足していた。完全菜食のビーガンとなればなおさらだろう。
ナショナル・ジオグラフィック誌は、このタンパク質不足を解消する、麹を使ったドッグフードを紹介している。麹を使うと風味がよくなり、肉に比べて環境負荷が小さいという主張も伝えている。
◆ビーガンはペットのためになるのか?
犬自身にとってプラスになる要因は何であろうか。サンタバーバラを拠点とする獣医師ジーン・グリークは、「犬が食物アレルギーの場合、大抵たんぱく質が引き金になっている」と話す(ガーディアン紙)。皮膚の痒みは、鶏肉や牛肉をダックや鹿肉に変える、もしくはビーガン食に変えることが好ましいとされる。
犬の嗜好としては、興味深い報告がある。
しばらくビーガン犬として育てられたハスキーの前に、野菜と肉を置いたところ、犬は野菜には見向きもせず肉を選んだ(メトロ紙)。
肉を食べることには、栄養だけではない効能がある。肉や生皮、骨を咀嚼することで満足感、リラックス感が生まれ、犬の精神を保つ効果が大きいと言われている(インデペンデント紙)。
それでは猫はどうだろうか。猫は肉食動物のため、ビーガンではアミノ酸の不足で筋肉が弱り、心停止が起こる可能性があるという。それでも、必要な栄養素を与えれば問題ないはずだとフェイスブック上で情報交換する飼い主のコミュニティには7,000人以上が名前を連ねる(ガーディアン紙)。
ペットに対して、人間のエゴの押し付けとならないことを祈りたい。
https://newsphere.jp/national/20181019-2/2/