京都市内で最古級とされる町家「川井家住宅」が8月末、解体された。
京町家保全継承条例を受け、市は具体策の柱として掲げるマッチング制度の活用で
建物の保存活用を目指したが、早くもつまずいた。
町家を持つ業者や元所有者は、支援の乏しさを強調。
解体を事前に察知するための規制も対象範囲が一部に限られており、
「かえって駆け込み的な解体が増えている」と指摘する声も上がっている。
■京都市、公金支出に応じず
市は、条例で町家を解体する場合は1年前までに所有者が市に届け出ることを今年5月から義務付けた。
義務化と同時期に運用を始めたマッチング制度を組み合わせ、保全を図る構えだ。
マッチングでは、市に登録した不動産や建築などの団体が、所有者らに利用希望者や活用案を紹介し、
売却や賃貸を促す。条例の義務化前に開発計画が動き出した川井家住宅は適用外だったが、
貴重さを鑑みてマッチングを試行し解体を防ごうとした。
業者側は市との協議に応じ、建物解体を遅らせた。「条件次第で別業者への売却も検討した」という。
市の仲介で10社ほどが関心を示したものの、現地見学に来たのは、わずか数社だった。
住宅のほか宿泊施設への転用を検討したとみられるが、転売は成立しなかった。
そこで当初のマンション計画との両立に向け、マンション玄関部などにして残し、
現地保存する代わりに市の高さ規制を緩和したり、市による移築を求めたりしたが、
市は高さ規制の特例緩和や未指定文化財への公金支出は難しいとして、応じなかった。
業者は「文化財に指定されていない点を確認し、一般家屋と同様の私有財産として購入した。
工期を遅らせて協議したが、その間の税金や金利負担が軽減されることもなく、
市への提案も断られた。これ以上の対応は難しかった」とする。
■「京都市に失望」自らの代で始末を
元所有者の代理人によると、市は景観面などから街の公共財として保存を求める一方、
所有者が建物維持費や税負担などの軽減を訴えても私有財産として自助努力を促された。
文化財指定して公開保存する方法はあるが、元自宅に多くの人に踏み込まれることには抵抗感があった。
代理人は「所有者側は、地域の歴史や文化と家を切り離し、とにかく建物だけを残すという
市の町家保存活用の考え方にも疑問があった。所有者の悩みや思いを共有する姿勢を
感じなかったことへの失望も大きい」と述べ、自らの代で始末する道を選んだという。
一方、NPO法人「京町家再生研究会」(中京区)の小島富佐江理事長は、
解体の事前届け出規制が進まない点を問題視する。規制対象とするには市の指定が要件だが、
市内にある約4万軒のうち、指定による「網掛け」を行ったのは約500軒にとどまる。
川井家住宅のような未指定物件では罰則のない努力義務しかかからない。
市内では、町家が観光活性化や不動産投資を理由に解体され、宿泊施設になる動きが加速している。
「一部業者は『未指定のうちに処分した方がいい』と触れ回っている」(小島理事長)といい、
規制の網掛けが整わないために、条例が解体を促す誘い水となっていると指摘する。
小島理事長は「市が支えとなり、全町家を守ろうとの趣旨で条例が施行されたはず。
いったん全ての町家に規制をかけるのが筋で、網掛けを早急に広げるべきだ。
近年の町家解体はバブル期を超える規模やスピードで行われている。
一時緊急買い取りなど踏み込んだ手だても打たないと、取り返しがつかなくなる」と危機感をあらわにしている。
【 2018年11月27日 12時43分 】
京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20181127000046
京都市最古級の町家が解体消失 室町起源、保全強化も奏功せず
https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20181127000023
京都市内最古級とされた川井家住宅。市がマッチング制度などを通じて
解体を防ごうとしたが実現しなかった(京都市中京区)
https://sokuhou.matomenow.com/wp-content/uploads/2018/11/201811271039171127kawaike_syakai.jpg