文春オンライン
2017年、アメリカの3大音楽授賞式の一つ「アメリカン・ミュージック・アワード」(AMAs)で単独ステージに立ち、世界のポップ界を驚かせたBTS(防弾少年団)の勢いは、2018年に入りさらに加速した。
2枚のアルバムがともにビルボードアルバムチャート(ビルボード200)1位を獲得するという、アジアのアーティストとしては初となる快挙を成し遂げると、韓国ソウルのオリンピックスタジアムからはじまり、ニューヨークのシティ・フィールドスタジアムやロンドンのO2アレーナなどを経て日本の四つのドームで幕を降ろしたワールドツアーでは、16の都市、79万席のチケットをすべて完売させた。
BTSは「YouTube時代のビートルズ」?
その「グローバルなセンセーション」に注目したイギリスのBBCやフランスのフィガロ、アメリカのフォーブスなどは、BTSを指して「21世紀のビートルズ」「YouTube時代のビートルズ」などと称した。単純に商業面での成功を比較し、そう呼んだわけではない。1964年、ビートルズがニューヨークのケネディ空港に降り立った瞬間から巻き起こった音楽的・産業的・社会的な変化とそれを支えた献身的なファンダム。当時を覚えている多くの人は、そのエネルギーをいまのBTSから感じているようにみえる。
ビートルズの時代を簡単に振り返ってみよう。ビートルズがアメリカに進出したとき、その自由な振る舞いと明るい音楽は、1963年のジョン・F・ケネディの暗殺後、求心力を失って沈鬱な雰囲気に満たされたアメリカ社会に衝撃に近いエネルギーを与えていた。とくに「ビートルカット」とも呼ばれたマッシュルームのような長い髪型と自由奔放な表情は、短い髪型をしたマッチョな男性像が強調されていたアメリカのメディア文化そのものに新たなトレンドをもたらした。さらに、グローバルなポップスターとなっていく中で、ビートルズはさまざまな変化を試み、献身的なファンダムとともに「愛と平和を象徴するアーティスト」として成長していった。
2013年に韓国でデビューしたBTSがグローバルなポップスターに成長するまでの過程にも、ビートルズの軌跡に重なるような興味深い要素が多々見られる。
「俺たちは全員犬や豚」アイドルらしかぬ過激な歌詞
そもそもBTSは、K-POPを動かす大手音楽事務所ではない小さな会社のアイドルとしてデビューしたことで、デビュー当初は主流メディアからほとんど注目されなかった。しかし彼らは、その不利な立場から成長していく自分たちの姿と同世代へのメッセージを、ブラックミュージックのサウンドと表現様式に乗せ、SNSをつうじて活発に発信しながら「BTSとしての物語」を構築していった。
「若者の人生と夢、愛」を音楽のテーマとしている彼らは、その若者を苦しめる格差や不平等などに対して政治的なメッセージを投げかけることをもためらわなかった。
たとえば、「DOPE」(2015年)では「何放世代(経済的・社会的理由で結婚、出産、安定した雇用などを手放さざるを得ない韓国の若者たちを揶揄する言葉)」「マスコミと大人たちは『意志がない』と俺たちを罵倒する」などといった歌詞が、「Am I Wrong」(2016年)では当時韓国教育省高官による「民衆は犬や豚」という発言を批判したと読み取れる「俺たちはみんな犬や豚、キレて犬になる」という歌詞や、「このクチコミが何ともないなら、このヘイトが何ともないなら、お前は正常じゃなく非正常」などといった歌詞が登場する。こうした歌詞を現役のアイドルが歌っていることを想像してもらえば、BTSのアイドルとしての特殊性を実感してもらえるはずだ。
既存の権威から離れた場所で獲得したファンダム
『花様年華Pt. 2』がビルボードアルバムチャートにランクインした2015年頃から、BTSのファンクラブ「A.R.M.Y」を中心としたグローバルなファンダムが爆発的に拡大した。それを可能にしたのは、彼らが表現する先端の音楽と圧倒的なダンスパフォーマンスだけではなく、その強いメッセージ性と成長し続けようとする態度、従来の男性像とは一線を画すファッションとイメージに共感したファンダムの力であり、言語の壁など簡単に乗り越えてしまうソーシャルメディアの力だった。
既存の秩序や権威から離れたところで、BTSの音楽をつうじて、いまの時代を生きる自分を見つけ出そうとする献身的なファンダム。その姿から、欧米のメディアはビートルズとそのファンダムを思い出したのだろう。
続きはこちらで↓
http://news.livedoor.com/lite/article_detail/15748369/