「買うより育てた方が安いと思って、ネットで栽培方法を調べた」。大麻取締法違反で起訴された30歳代の男は昨年8月、佐賀地裁の初公判で検察官の質問に淡々と答えた。
男は一昨年の11月頃から自宅で大麻草の栽培を開始。必要な育成道具などを13万円で購入し、葉を乾燥させ、自宅の押し入れに保管していた。押収された大麻は約550グラム。裁判で懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡され、確定した。
県警組織犯罪対策課によると、大麻取締法違反などでの摘発は10年ほど前にピークを迎え、その後、減少傾向にあったが、再び増えている。全国的にも増加傾向にあり、警察庁のまとめでは、昨年11月末時点で3209人を摘発、過去最多となる見通しという。
要因の一つに挙げられるのが、危険ドラッグの規制強化だ。同課などによると、「お香」や「ハーブ」などとして一部の若者の間で流行した危険ドラッグは、乱用者による交通事故などが社会問題化し、2013年と14年の法改正で使用や所持、合法をアピールする販売方法も罪に問われるようになった。
また、次々に登場する新種の危険ドラッグは身体への影響が未知数で危険も大きいことから、大麻へ回帰する動きが起きているという。
海外では大麻が合法化されている国もあり、無料動画配信サイトでは、吸引や栽培に関する情報が紹介されている。観賞用として大麻の種子を販売するホームページもある。乾燥大麻は1グラム6000円前後で、金銭的に入手しやすいことも、広がりを見せる理由という。
同課の大坪光次席は「摘発数は増えているが、水面下でまだ多くの乱用者がいるはず。暴力団のような組織的な背景がないため、供給ルートの実態解明には時間がかかる」と話す。
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佐賀県薬務課によると、覚醒剤は使用すると興奮状態になるのに対し、大麻は過度な幸福感に浸れるのが特徴という。乱用するうちに、うつや幻覚、妄想などの症状が表れ、回復には長い時間がかかる。
薬物依存者の社会復帰を支援する佐賀ダルク(佐賀市)の松尾周代表によると、大麻は覚醒剤などと比べて依存性は強くないが、気付いた時には中毒状態になっているケースがあるという。
佐賀ダルクでは現在、15人の男女が共同生活を送っており、大麻から覚醒剤に手を染めた人もいる。自身の経験を語る「ミーティング」などのプログラムを通じて薬物依存からの脱却を目指している。
松尾代表は「薬物に手を出す人の多くが、家庭や学校などで悩みを抱えている。依存者を減らしていくには悩みを相談できる場も必要」と話す。(岡本昌子)
◆大麻=大麻草を加工して作る薬物で、乾燥させた葉を火であぶるなどして煙を吸引する。幻覚成分「テトラヒドロカンナビノール」が含まれ、脳神経に作用を及ぼす。大麻草は、茎から取れる繊維をしめ縄の材料に用いるなど、日本文化と関わりの深い植物でもある。
2019年01月15日 09時16分
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