「高校の成績は常にトップクラス。討論や数学の全国、州の大会で何度も入賞した。それなのにハーバードを含めた上位30校全てが入学を認めなかった」
ハーバード大を相手取った訴訟を支援する中国出身のジョージ・シェン氏(50)は米国生まれの長男が大学選びをした3年前の経験を振り返った。同大の入学選考を調べ始め、アジア系米国人への差別を確信するようになった。
大学を訴えたのはNPO「公平な入学選考を求める学生たち」(SFFA)。主張はこうだ。アジア系米国人は「大学進学適性試験」(SAT)などで好成績を収める傾向がある。だがアジア系への入学許可枠が少なく、ほかの人種より合格率が低い――。
米国の大学では選考で人種を考慮することは認められているが、人種枠の設定は違憲とされる。これに対しSFFAは、アジア系の受験者が増えているのに2006〜14年の合格者に占めるアジア系の割合が18〜20%とほぼ一定だと指摘。他人種の割合も変化がなく、実質的に人種枠があると追及する。
裁判では、学業成績だけで選べば入学者の43%がアジア系になるというハーバード大の内部試算も明らかになった。米国では積極的に発言する生徒の評価が高く、SFFAは「アジア系はおとなしい」との先入観でマイナス評価され、合格率が落ちると訴えた。
これに対し大学側は「人種を含めた志望者の全ての要素から柔軟に判定している」などと反論する。
学生や同窓生の25団体は裁判で大学擁護の意見書を提出した。その一つ、音楽グループ「21カラフル・クリムゾン」代表のジェームズ・マシューさん(20)はインド系米国人。白人が大半だったシカゴ郊外で生まれ育ち、周りとの違いを常に感じていた。「この国ではアジア系への偏見は間違いなくある」と話す。
だが、ハーバードは、肌の色や背景の異なる様々な学生が共に学び、刺激を与え合う。「ここは国のリーダーも輩出する学校だ。多様性のある環境での教育が極めて大事」。入学選考で人種への一定の配慮は必要、との考えだ。
■黒人ら優遇に「逆差別」の声
この裁判が注目されるのは、大学入学選考にとどまらず、差別されてきた黒人らの待遇を改善する「積極的差別是正措置」(アファーマティブ・アクション)の存廃にかかわるとみられているためだ。白人保守派は白人への「逆差別」と捉え、撤廃を目指してきた。
今回もその延長線上で、原告側の真の狙いは、保守色を強める連邦最高裁まで持ち込み、積極的差別是正措置そのものを違憲とする判決を勝ち取ることではないか、とみられている。
こうした見方を裏打ちするのが、原告SFFAの実態だ。サイトには「学生や親ら2万人以上のメンバーを抱える」とあり、裁判ではアジア系米国人を代弁する。だが大学側は「SFFAは会長のエドワード・ブラム氏が自身のイデオロギー的目標のために作った装置」と切り捨てる。
ブラム氏は白人女性が08年、「人種を選考基準にすべきではない」とテキサス大を訴えた裁判の仕掛け人だった。この裁判では負けたが、今度はアジア系を前面に立てて揺さぶっているというわけだ。少数派優遇に批判的なトランプ政権はSFFAを支持する意見書を提出している。
このため「アジア系がブラム氏に利用されている」との批判もある。だがSFFAと協力する中国系中心の「教育のためのアジア系米国人連合」(AACE)のユーコン・ジャオ会長は「我々はブラム氏に会う前から運動している。こちらがブラム氏の影響力を利用しているようなもの」と意に介さない。AACEはイエール、ブラウン、ダートマスなどの名門大にも入学選考で差別があるとして教育省や司法省に調査を求めている。
一方、高等教育の構造的不平等を研究するコロンビア大学法学院のスーザン・スターム教授は「裁判が積極的差別是正措置との関係だけで語られるのは大きな問題」とする。
以下ソース先で
2019年1月16日07時23分
https://www.asahi.com/articles/ASM1C34JXM1CUHBI00C.html
https://www.asahicom.jp/articles/images/c_AS20190115002007_comm.jpg