近年、免疫学の世界では、「先進国で問題となっているアレルギー性疾患は、ヒトの腸内細菌の減少と関連している」と指摘されている。
欧米では、最新の免疫学をもとにした書籍が多数出版され、とくに『「きたない子育て」はいいことだらけ!』(ブレット・フィンレー、マリー=クレア・アリエッタ著 プレジデント社)、『すべての不調をなくしたければ除菌はやめなさい』(ジョシュ・アックス著 文響社)はベストセラーとなり、日本でも邦訳が出版された。
この2冊の原書のタイトルは、それぞれ『Let Them Eat Dirt』、『Eat Dirt』で、要するに「土を食べなさい」という衝撃的なものである。
実は日本でも20年以上も前から同様の主張を訴え続けてきた免疫学者がいる。『笑うカイチュウ』や『腸内革命』の著者で、「寄生虫博士」としても知られる東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎氏だ。
藤田氏は、「腸内には善玉菌だけでなく悪玉菌や日和見菌(ふだんは「善玉」の動きをしているのに体調が悪いときには「悪玉」に豹変する菌)もいるのが正常な状態で、その比率は2:1:7。生物多様性に富んだ土は、日和見菌である土壌菌が多く生息している」と解説する。“土を食べなさい”の真意とは、「土壌菌を体内に取り入れることが腸内細菌の活性化を促す」ということだ。
■「落ちたものを食べさせなさい」
さらに藤田氏は、「しかも、ヒトの腸内環境の組成は生後1年間で決まってしまう」という。
「乳児期にどれだけ多くの種類の“共生菌”を体内に摂り込めるかが、ヒトの腸内環境を決定付けます。そのため、赤ちゃんには、善玉菌と言われる乳酸菌だけでなく、土壌菌が必須なのです。土壌菌というのは土のなかだけでなく、床やテーブルなどにも付着している菌です。ですから、赤ちゃんが身の回りのものをなめようとするとき、『バッチイ』などと言って遮ってはいけません。こうした赤ちゃんの行為は、自らの腸内環境を豊かに育もうとするいわば『本能』であり、私たちは太古からそうやって細菌を体内に取り込むことを続けてきたのです」
孫をもつ藤田氏はこれを2人の娘にも実践させた。
「娘たちには、『身の回りの細菌と仲良くすることが、アレルギーを遠ざけるんだよ。お父さんは何十年もそのことを訴え続けてきたんだ。それなのに、お前たちの子がアレルギーになったらお父さんは困ってしまうから、孫達には落ちたものを食べさせなさい』と言い続けました。娘達は『汚いからヤダ』と渋っていたのですが、ヤンチャな孫たちは母親が教えるまでもなく、テーブルに這い上がっては茶碗を蹴とばし、こぼれたご飯を手掴みで食べることを実践してきました。おかげで成長した今も、誰もアレルギーを発症することなく、風邪もめったに引かず、丈夫な免疫力を発揮しています」
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