SFで人気のあるアイデアは、ブラックホールを別次元や別宇宙へと跳ぶポータルとして使うというものだが、確かにブラックホールを利用すれば光速より速く移動することが可能になるかもしれないという。
■ブラックホール・ポータルを利用したワープ航法
ブラックホールは宇宙でも一番ミステリアスな天体だ。死にゆく星が重力で際限なく潰れ、特異点が形成された結果として誕生する。
このとき、その星の密度は無限大まで圧縮され、それによって時空に穴が穿たれる。れを利用すれば、もしかしたらワープ航法も可能かもしれないという。
つまり特異点の穴を通過して時空をショートカットし、はるか遠方の宇宙へ短時間で到達できる、というのがブラックホール・ポータルの基本コンセプトだ。
だがブラックホールをポータルとして利用しようという宇宙船は、最悪の状況を想定して設計されなければならない、というのが従来の見解だ。
というのも熱く高密度の特異点は、そこに進入した宇宙船をスパゲッティのように引き延ばしたり、圧縮したりしながら、最後は蒸発させてしまうだろうからだ。
ブラックホールを安全な通路として利用できる可能性が
最近、アメリカ・マサチューセッツ・ダートマス大学のガウラフ・カナ教授らによって、すべてのブラックホールが同じような作りではないことが示された。
そして、いて座A*のような巨大でかつ回転しているブラックホールならば、特異点はとても穏やかなものかもしれないという。
つまりブラックホールを安全な通路として利用できるかもしれないということだ。
その研究チームによれば、回転するブラックホール内部の特異点は専門的に見れば”弱い”。そのために、ここに接触した物体を破壊することもない。
一見、このことは直感に反するかもしれない。だが、それはロウソクの炎の部分にさっと指を通すことと似ている。炎は2000度もあるが、指に火傷を負わないのと同じだ。
(以下省略)