被害男性は2016年2月、不特定多数が閲覧できるネット掲示板「2ちゃんねる」で、実名を挙げて「在日朝鮮人、詐欺師、借金まみれ」「在日だから当然か」などと書き込まれて名誉を傷つけられたとして、八重山署に刑事告訴していた。
複数の関係者によると同署は昨年11月に被疑者不詳で書類送検していたが、検察側が独自に捜査を進めたとみられる。検察側は詳細を明らかにしないが、2人はいずれも県外出身者で、うち1人は40代とみられる。起訴処分はそれぞれ1月15日付と同月23日付。
ヘイトスピーチは「2ちゃんねる」にとどまらず、別の匿名掲示板にもあった。確認できるだけで18年12月まで続いている。
男性自身や仕事内容への中傷のほか、「在日は恐ろしい」「朝鮮人は日本から出て祖国へ帰れ」など明らかに民族差別的な投稿も複数見られた。男性の会社名なども記載され、仕事上の風評被害もあった。
全国では18年4月、京都市の街頭で男性がヘイトスピーチをしたとして、京都地検が侮辱罪より重い名誉毀損罪を初適用し在宅起訴した。同12月にはネット上で匿名のヘイトスピーチを書き込んだ男性に対し、川崎簡裁が侮辱罪で科料9千円の略式命令を出した。
ヘイトスピーチの問題に詳しい龍谷大の金尚均(キムサンギュン)教授(刑法)は「差別解消に向けた施策を国の責務とするヘイトスピーチ対策法が16年に施行され、立件の下支えになっている。捜査当局は今後も積極的に対応すべきだ」と指摘した。
■ヘイト立件、法が支え「関係修復へ議論を」
ヘイトスピーチ対策法には罰則がないものの、2016年の施行後、差別解消を求める法の精神に沿って捜査当局が立件する事例が出ている。専門家は「対策法が支えになっている。石垣の事件もその流れにある」と指摘する。
京都地検は18年、京都市の京都朝鮮第一初級学校跡地近くで拡声器を使って学校の評価をおとしめる発言をしたとして、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の元幹部を名誉毀損(きそん)罪で在宅起訴した。
この元幹部は09年にも同校に集団で詰め掛け、威力業務妨害罪などで有罪判決を受けた。当時子どもを通わせていて、現場にも立ち会った龍谷大の金尚均キムサンギュン教授は「ヘイトは単に不快な言葉ではなく、相手をさげすむことによって同じ人間であることを否定し、将来の差別を正当化する」と語る。
沖縄を標的にしたヘイトも広がっている。「国による上からの差別と民間による下からの差別に挟み撃ちにされているのは沖縄の人々も同じ。保護の対象を外国だけでないあらゆる出自、属性の人々に広げる法改正が喫緊の課題だ」と語った。
一方で、ヘイトは終息しない。京都市の事件で被害者側代理人を務める冨増四季弁護士は「ペナルティーを科すのみでは、かえって被害マイノリティーへの反感や敵視を強め、社会を分断してしまいかねない」と懸念。「加害者の悪質さに目を奪われがちだが、被害者の痛みや背景にも光を当て、差別被害への共感と関係修復につなげていくアプローチについて社会的な議論を始める時だ」と話した。(北部報道部・阿部岳)
2/6(水) 8:45
沖縄タイムス
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