鶏むね肉が人気だという声を最近よく聞く。健康志向を背景に、高タンパク低カロリーであることが人気の理由で、
パサパサした食感が敬遠されたのは昔の話だというのだが、本当だろうか。鶏むね肉人気を探った。
■データは存在せず
鶏むね肉は、文字通り鶏の胸部の肉。低カロリー、低脂肪なのが特徴だが、脂肪分が少ない分食感はパサパサしており、味わいも淡泊だ。
生産者らで作る「日本食鳥協会」の鈴木稔専務理事によると、「欧米では従来からヘルシーミートとして人気が高い」という。
これに対して日本では、脂肪が多くコクのあるもも肉のほうが好まれてきた。
そのむね肉が、いまや日本でも人気だと言われているというのだが、それを示すデータなどはあるのだろうか?
食鳥協会や農林水産省、農業協同組合に尋ねたが、返答は「鶏肉の消費量に関する部位別の統計数字はない」と異口同音。
ただ、農水省は毎年食料需給表を発表している。これによると日本人一人あたりの1年間の食肉消費量は平成28年度は31・6キロで過去最高を更新。
うち最も多いのが鶏肉の13キロだった。むねももも含めたまるごとの量だ。
豚肉は12・4キロ、牛肉は6キロだが、鶏肉は24年度に豚肉を追い抜いて以降首位を独走している。
鈴木専務理事は、「鶏肉全体の需要が伸びるなか、注目されているのがむね肉というわけです」と話す。むね肉人気が鶏肉全体の需要を牽引しているということなのだろうか。
■24年に何があった
24年頃、むね肉をめぐって何かあったのだろうかというと、これがあった。「サラダチキン」への注目が高まったのが、この頃だったのだ。
サラダチキンは、鶏むね肉の加工食品。蒸したむね肉に何らかの味付けをし、これを真空パックしたもので、コンビニエンスストアなどで販売されている。
裂いてサラダの具材とする。
鈴木専務理事は「もも肉に比べ生肉としての需要が低かったむね肉は、加工品にも使われてきました」という。
サラダチキンもそんな加工品の一つなのだが、折しも当時、糖質の摂取を減らす「糖質オフダイエット」が注目を集めていた。
糖質が少ない鶏むね肉であるサラダチキンが、中高年男性から若い女性まで幅広い層から支持を得る大きな理由となった。
スーパーやコンビニ各社は商品展開を広げたこともあり、サラダチキン人気は継続。食肉大手の日本ハムによると、
同社の「ローストサラダチキン」の今年4〜9月の販売数は、昨年同期の4倍以上だという。
■外食産業に波及
外食産業も鶏むね肉人気を見逃さなかった。
飲食店の情報を提供するウエブサイト「ぐるなび」によると、鶏むね肉使用をメニューに明記する店舗が29年4月頃から増えた。
同年12月から今年2月にかけて1・4倍になった。
広報担当の鈴木裕美さんは「従来、鶏肉の部位をメニュー名に入れるのは焼き鳥くらいでした。淡泊なむね肉は味付けもしやすいし、安価なのでコストも抑えられます。
飲食店側も使いやすいのでは」と指摘する。
しかも人気だ。高タンパク低カロリーを掲げる「筋肉食堂」の「鶏ムネ肉ステーキ」は、3本指に入る人気メニューだという。
運営会社TANPAC(タンパック)のマネージャー、谷川俊平さんによれば、同店はむね肉の両面を焼いた後に「スチームコンべクション」と呼ばれるオーブンで
蒸し焼きにする。「蒸しながら焼くことで水分を閉じ込めます」(谷川さん)。ナイフを入れると、切り口は瑞々しく、しっとりとした食感だ。
■そして定着
ぐるなびの鈴木さんによれば、29年は「腹筋女子」の登場など、健康志向が「食べないでやせる」から「積極的に栄養を取り入れて体を作る」方向に転換した。
これが、鶏むね肉人気の追い風になった。
鶏むね肉に豊富に含まれる栄養素「イミダゾールジペプチド」は疲労回復効果が高い−−と体づくりに興味がある人の間で話題になったのも同じ頃だった。
家庭の食卓にも登場する。総合スーパーのイオンリテールによると、鶏むね肉の生肉の1カ月の売り上げが、3年前の1・2倍になっている。
むね肉を使った鶏ハムや鶏チャーシューなど家庭で簡単に作れるレシピ、麹に漬け込んだり低温調理するなど鶏むね肉をやわらかくするノウハウなどが、
インターネットを通じて広がり、知られるようになった。
※全文はソース参照