奄美空港で1年半前、車椅子の木島英登(ひでとう)さん(45)が格安航空会社「バニラ・エア」の旅客機に搭乗を拒否され、自力でタラップをよじ登った出来事が、障害者差別として注目を集めました。
ただ、批判は木島さんにも向けられ、「クレーマー」「プロ障害者」と中傷されました。
問題の本質は何だったのか、いま何を思うのか、木島さんに聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・岩井建樹)
<バニラ・エア問題>
2017年6月3日、木島英登さんが関西空港発奄美行きのバニラ・エア便に乗ろうとした際、搭乗カウンターで、奄美空港は階段式タラップのため、「歩けない人は乗れません」と言われました。
木島さんは「同行者に手伝ってもらう」と伝えて搭乗し、降りる時には友人らに車椅子ごと担いでもらいました。
しかし、2日後の帰宅の便で同様の方法でタラップを上ろうとした際、同社委託の空港職員が制止。木島さんは腕の力を使ってタラップを上ろうとすると、「それでもだめ」と言われたものの、上り切りました。
バニラ・エアは木島さんに謝罪。一方、木島さんが事前連絡していなかったことに、批判の声も上がりました。
あれから1年半。木島さんが今、何を考えているのか聞きたくて会いにいきました。
11月下旬、大阪府豊中市の駅。車椅子をこぐ姿で、すぐに木島さんだとわかりました。
ネット上での炎上を体験し、さぞ大変だったのでは?
そう尋ねると、「白髪が増えましたね」との答えが返ってきました。
「ネット上で、『航空会社からお金をもらった』『死ね』といったデマや中傷を受けました。『告発するために、わざと騒ぎを起こした』とも言われました。友人たちと奄美に旅行に行っただけなんですがね」
「ネット上の書き込みは気にしないようにしていましたが、ストレスがあったのでしょう。血圧が上がり、白髪が増えました。ただ、日常生活や仕事に直接の影響はありませんでした」
「懸念しているのは、この炎上騒動を見て、『やっぱり障害者が声を上げるとたたかれる』と萎縮してしまう人が出てしまうのではないかということです」
木島さんは、バニラ・エア問題の本質は、人間として当たり前の権利をどう考えるかだと、言います。
「私がバニラ・エアに求めたには、『移動させてほしい』、この1点です。私は、バニラ・エア側に『設備を用意しろ』とも、『手伝ってくれ』とも言っていません。ただ、飛行機に乗せてほしかっただけです。歩けないことを理由に、搭乗を拒否するのは人権侵害です」
「日本には、『移動の権利』という考え方が欠けています。これは、障害者だけの問題ではありません。地方では公共交通が経営上の理由で衰退し、車を運転できない高齢者は不自由な生活を強いられています」
木島さんは、バニラ・エアの対応について、鹿児島県と大阪府に相談。バニラ・エアは木島さんに謝罪し、階段昇降機を導入しました。国も今年10月から、車椅子の人が航空機に搭乗するための支援設備の完備を義務づけました。
「行政担当者や、バニラ・エアのその後の対応は評価しています。障害を理由にサービスの利用を拒否することを禁じる障害者差別解消法に基づく改善例として、今回の事例は参考になると思います」
一方、木島さんが、バニラ・エア側に事前連絡していなかったことにも批判の声が上がりました。
「わざとではありません。ネットで予約したときに、事前連絡する必要があることに気づきませんでした。たとえ事前連絡してもバニラ・エア側は乗せなかったこともメディアの取材で明らかになっています」
「そもそも私は飛行機に乗るのに、過度な負担の手伝いは必要ないので、事前連絡せずに乗っても問題ないと考えています。事前連絡すると、かなり手間がかかったり、たらい回しにあったりすることも多いのです」
「事前連絡は障害がある人を排除するための、ある種のフィルターになっている場合もあります」
木島さんは、「バリアフリー研究所」代表を務め、これまでに169カ国を旅し、世界中のバリアフリーの状況を見てきました。
「ハード面で言えば、建物のバリアフリーは進みました。ただ、過剰ともいえる豪華な設備があるのも日本の特徴です。そして、人々の『心のバリアー』が課題です」
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https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181204-00000003-withnews-soci