大谷の快挙を日本のメディアが伝える時、目に飛び込んでくるのが「全米熱狂」「全米驚愕」といった表現。言葉通りに受け取れば、全米各地の職場や学校、井戸端会議などで話題になっているということになるだろう。
果たして本当なのか。残念ながら、そうした表現は伝える側の誇張か誤解と言わざるをえない。
「大谷選手は、アジアではあがめられて、国民的英雄として扱われているかもしれませんが、全米はさることながら、ロサンゼルスでもまだその名を知られるようにはなっていません」
と南カリフォルニア大学スポーツ研究所所長を務めるデービッド・カーター氏は言う。
●簡単には起きないブーム
もちろん大谷の今シーズンの活躍はすごかった。筆者が本音で意見を言い合える仲のアメリカの野球通たちも、彼の才能を絶賛している。本拠地エンゼルスタジアムに行けば、大谷グッズを身に着けているファンの姿をごまんと見る。
エンゼルスでは、今や主砲マイク・トラウトに次ぐ人気を誇る。大谷が今年の米野球界で最も注目を集めた選手と言っても過言ではないくらいだ。
しかし、それでもエンゼルスの地元オレンジ郡ですら、大谷の存在を知らない人は多い。バーで隣に座った人に「オオタニサーン!」と話題を振っても、何のことか理解されないだろう。
スタジアムでの熱気を感じ、興奮する野球関係者に話を聞いた日本のメディアが、大谷の人気がすさまじいと報じる気持ちは理解できる。だが、それは多様な米社会の一部分を切り取っているに過ぎないのも事実だ。
「大谷が今シーズン成し遂げた二刀流での成功は、一世代に一度あるかないかのことです」と話すのは、野球ファンであり、カリフォルニア大学アーバイン校でアジア研究を教えるジェリー・リー教授。
「ただし、日本人や(アメリカの)野球ファンにとっては大きな存在ですが、それ以外の人々の間では、ほぼ無名です」
そもそも、日本が大谷にこれだけ注目しているのは、彼が日本人として海外でチャレンジしているからだ。アメリカが同じだけ盛り上がっていると考えるには無理がある。
日本のプロ野球に当てはめてみても、新人王を獲った選手が全国を熱狂させて野球ファン以外にまで名を知られるようにはならないだろう。
さらに、広大な土地に様々なバックグラウンドを持つ人たちが暮らすアメリカでは、人々の興味が細分化している。
テレビをつければ、ニュースやスポーツや娯楽など、あらゆる専門チャンネルが何百もある。インターネットの普及で選択肢の多さは加速するばかりだ。
スポーツに興味のない人が、試合中継やスポーツニュースを目にする機会というのは、ほとんどなくなってきている。オリンピックなどでの自国代表の試合ですら、そんなに盛り上がらない。
日本で起きた大谷や大坂なおみのようなブームは、そもそも起きづらいのだ。
●ベースボールの地位が低下
加えて、日本に比べると、アメリカで野球の占める地位は決して高くない。
スポーツ大国のアメリカには、メジャーリーグと肩を並べるか、それ以上に人気のプロや大学スポーツが存在する。そんな中で、野球は特にファンの高齢化が進んでいるといわれる。
2018年のレッドソックス対ドジャーズのワールドシリーズは、14年以来、最もテレビ視聴者数が少なかった。平均視聴者数1430万人は、前年に比べて23%減。
日本でも昔に比べて人気が落ちたとは言え、いまだにプロ野球や日本人メジャーリーガーがスポーツニュースでトップに取り上げられ、甲子園が国民的人気を保っているのを見ると、その差を感じる。
メジャーリーグの課題として挙げられるのが、バスケットボールのレブロン・ジェームズやテニスのセリーナ・ウィリアムズのように、地域や競技の枠を超えて広く影響力がある現役のスーパースターがいないことだ。
メジャー最高選手の呼び声が高いトラウトですら、アメリカ人の約5人に1人にしか認知されていないというブランド調査の結果が出ている。
そして、何といってもエンタメの中心地ハリウッドがあるため、有名人や話題には事欠かない。
「ロサンゼルスには、トラウトの他に、(レーカーズの)レブロン・ジェームズや(サッカー、LAギャラクシーの)ズラタン・イブラヒモビッチといったスーパースターがいます」とカーター氏は言う。
「売り出し中の大谷は、とても競争の激しいマーケットでプレーしているのです」
12/18(火) 16:45配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181218-00010000-jijv-spo&p=1