「サザエさん」のような3世代同居の大家族も今は昔。一生結婚しない人が増え、孤独死は珍しくなくなった。
昭和の「家族」が崩壊した平成を振り返りながら、次の時代はどうなるのか、パラサイト・シングルの名付け親の山田昌弘・中央大学教授(家族社会学)に聞いた。
もうすぐ終わろうとしている平成。バブル崩壊で経済が長期間停滞し、地震や豪雨など災害が相次いだ。年金や医療といった社会保障制度への不安も高まり、不透明感が増した時代。
そんな中で家族のあり方も大きく変わった。一言で言えば、「多様化が進んだ」のだ。
「一言では語れない時代に入りました。○○世代と語れるのは昭和生まれまでです。昭和の若者はみんな中流で似たような考え方を持ち、モデルとなる家庭像を語れました。
平成の30年間で格差が広がり、もはや一言では語れなくなりました。結婚して子どもをつくり家庭を築く人はまだ多数派ですが、そこからこぼれ落ちる人は増えてきています」
東京学芸大学の助教授だった山田さんが『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)を出したのは1999年。若者の就職が難しく、給料も上がりにくいなか、親と同居してリッチに暮らす20代の未婚者は、まるで親に寄生(パラサイト)しているように見えた。
それが可能だったのは、親の世代はほとんど正社員で、持ち家があったから。経済的に余裕があり、稼げない息子や結婚前の娘を支援するのに抵抗感はなかった。
20代のうちは親に頼っていても、いずれは自立して自分の家庭を築くと期待されていた。
だが、現実はそうはなっていない。30〜40代の中年になっても、結婚しないまま親と同居し続ける人たちがたくさんいる。
総務省統計研究研修所の西文彦さんは、「35〜44歳の親同居未婚者」の推移をまとめた。80年には39万人しかいなかったが、2016年には288万人まで急増している。
35〜44歳人口に占める割合も、2.2%から16.3%に上昇。6人に1人が該当するまでになっているのだ(データは各年とも9月の数値)。
山田さんは、こうした親同居で未婚のアラフォーを「中年パラサイト・シングル」と呼んでいる。
「これから20年後、彼らは50〜60代になり、寄生する親は80〜90代を迎えます。
いまは親が年金をもらっているので、子どもの収入が少なくても、とりあえず生活は保てています。親の介護も同居の子に頼ることができます。ただ、親が亡くなる日は必ず来ます」
いつまでも親の年金や貯金、持ち家に頼り続けることはできない。「中年パラサイト・シングル」には正社員もいるが、2〜3割は不安定な非正規雇用で働く。
約1割は失業者だ。親の死後を見据えて、自分で十分な蓄えをしている人は少数派だ。親の貯金を使い果たせば、生活保護に頼るケースも考えられる。
「90年代は明るく若いパラサイト・シングルで始まりましたが、親が亡くなったら生活できないという中年パラサイト・シングルとなって、平成が終わります」
この危機的状況を示す言葉が、「2040年問題」。40年には親世代の大半が亡くなり、残された高齢の子どもたちが、にっちもさっちもいかなくなる状態がやってくるのだ。
問題は00年ごろから指摘されてきたが、中年パラサイト・シングルは増加傾向のままで、対策は進んでこなかった。
親が死んだときに、60歳を超える未婚の子どもたちはどうなるのか。いまさら正社員として雇ってくれるところはなく、頼れる親族もほかにいない。
山田さんは中年パラサイト・シングルの多くが、「下流かつ孤立老人」になると予測する。
「下流老人」とは、生活保護基準に相当するような貧困状態で暮らさざるを得ない人たちだ。孤立老人は、社会や身内とのつながりが切れて誰からも支援してもらえない。
こうなると、「命の最後の砦(とりで)」とされる生活保護に頼るしかない。
厚生労働省が1月9日に発表した調査では、昨年10月時点で生活保護を受けている65歳以上の高齢者世帯(一時的な保護停止は除く)は88万2001世帯。過去最多を更新しており、生活保護世帯全体の54.1%を占める。
いまでも生活保護を受ける高齢者が多いのに、中年パラサイト・シングルが65歳以上になればどうなるのか。
山田さんは『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』(朝日新書)でこう予言している。