しかし、そもそもこういう賠償請求は、実際に賠償請求を行う企業を利するものなのだろうか。 前述したように、不適切動画の投稿に伴う損害賠償請求というのは、法的には決して簡単なものではない。また、この場合に訴えられるのは、めぼしい資産を持たない若年のアルバイトであろうから、仮に裁判で企業側が勝ったとしても、現実の回収は困難である。もちろん、そのアルバイトの親族に、賠償を肩代わりする義務があるわけでもない。
そうすると、この種の訴訟は、費用対効果の見込めない、いわば「見せしめ」のための訴訟とならざるを得ない。
他方、この種の事件で賠償請求に打って出ることによるデメリットは、決して軽視できないものがある。こういう裁判は誰から見ても「見せしめ」と映るから、現場の労働者、そして求職者を萎縮させる。アルバイトはお金が欲しくて働きにくるのに、逆に会社から訴えられて巨額の賠償請求をされるかもしれないというのでは、面接に向かう足も遠のくというものだろう。
現在、「飲食物調理」や「接客・給仕」といった仕事の有効求人倍率は3倍を超えており、立派な人手不足産業である。こうした中にあって、あえて求職者の足を遠のかせるようなことをするのは、どちらかといえば「悪目立ち」の類いの行動である。
なるほど、確かに不適切動画の投稿はよくないことである。しかし、だからといって、投稿者を法廷に引きずり出して懲らしめるという方法を採ることは、その企業自身を利するものではないように思われる。
筆者自身は、実際のところ、昨今発覚したような事態は、飲食業の現場では他にも多々起きていることなのではないかと思っている。日本で働いているアルバイトの数は1000万人規模なのだから、その中におかしな行動に出る者が一定数いることは、別に不思議なことではない。
こうした中で、イレギュラーの事態に際して、感情任せでない、理に即した対応を行うことこそが肝要である。「あえて法には訴えない」という判断は、決して企業の価値を下げるものではない。むしろ企業価値を高めることである。事実をきちんと確認し、法的な見通しをつけ、企業の損得を冷静に見極める視座こそが求められる。
そうして熟慮した結果が、「事を荒立てない」というところに至ったならば、静かにそれを実践すればよい。冷厳に懲戒処分を実行し、必要な範囲で社会に向けて謝罪し、他の従業員に対しては規律の引き締めを通達する、それで十分ではないだろうか。そして、実際に日本の経営者の多くは、そのように実践してきたのではないだろうか。
もとより若者というのは、人生経験の不足ゆえに、時として「若気の至り」からの失敗もするものである。そのような若者の失敗をいつまでもあげつらい、法廷で多額の賠償金を支払えといきり立てるのが、見識ある経営者の姿であるとは思えない。
近時、不適切動画をめぐっていくつかの企業の名前がクローズアップされたが、むしろ、そこに名前の出てこない企業の対応にこそ、学ぶべきところが多いように思われるのである。
くら寿司は「不適切動画」に断固たる姿勢を示した
なるほど、このような事態に直面すれば、経営者の方は悔しいと思われるかもしれない。なればこそ、まさしく「沈黙は金なり」と申し上げたい。冷静な判断の結果は決して「泣き寝入り」ではない。
すぐには目に見えず、形にならないかもしれないが、実際には沈黙こそが、法廷において雄弁を振るうよりも、多くのものを会社にもたらしてくれるはずである。
2019年2月18日 7時55分
iRONNA 黒葛原歩(弁護士)
http://news.livedoor.com/article/detail/16036490/
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